火災保険料の引き上げ
「損害保険料率算出機構」(以下:損保料率機構)は6月28日、住宅向け火災保険の制度改定で保険料を引き上げることを発表した。
改定により、火災保険料を算出する際に用いる「参考純率」が全国平均で13.0%引き上げられる。また、火災保険に付帯する「水災補償(風や豪雨などの被害に対する補償)」の保険料率についても地域ごとに見直され、地域によっては従来よりも保険料が高くなる見通しだ。
近年自然災害が多発しており火災保険料の支払いが増えていること、保険契約者間に不公平性が生じていることが、制度改定の背景となっている。今後火災保険料はどのように変わるのか、本記事では制度改定の概要について見ていく。
■本記事のポイント
・火災保険の参考純率が全国平均で13.0%引き上げられる
・風や豪雨による水害リスクを市区町村別に5段階で評価し、リスクが高い地域ほど水災補償の保険料を高くする
・近年の保険金支払い増加と契約者間の保険料負担の不公平性が背景
参考純率が全国平均で13.0%引き上げ、地域の較差は
今回の制度改定による大きな変更点は、以下の2点だ。
・住宅総合保険の参考純率について、全国平均で13.0%引き上げる
・水災に関する料率を地域のリスクに応じて5区分に細分化する
火災保険料を算出するための保険料率は、純保険料率と付加保険料率の2つからなる。このうち、災害が発生したときに保険会社が支払う保険金に充てられる部分が純保険料率。損保料率機構はこの純保険料率の参考数値である「参考純率」を算出し、保険会社がそれをもとに自社の純保険率を決める。
今回の制度改定で、火災保険における「参考純率」が全国平均で13.0%引き上げられる。また、火災保険に付帯する「水災補償」の保険料率(以下、水災料率)については、地域を5つの区分に分けてそれぞれのリスクに応じた料率が適用されることになる。
水災料率は、現行の制度においては全国一律となっている。改定後の制度は、風や豪雨による水害リスクを市区町村別に5段階で評価し、リスクが高い地域ほど保険料を高くするという仕組みだ。
この仕組みにより、保険料が最も高いグループである「5等地」と、保険料が最も安いグループである「1等地」の保険料較差は約1.2倍になるという。報道によれば、改定した制度は2024年度中に適用される見通しだ。
上の表は、耐火構造(鉄筋コンクリート造等)の共同住宅で保険金額が建物2000万円・家財1000万円・築10年以上の場合に、今回の制度改定で火災保険の参考純率がどれだけ引き上げられるかを示したものだ。三大都市圏で契約件数が最も多い都府県の例として、東京は10.4%、大阪は16.9%、愛知は13.7%引き上げられる。
上記条件の住宅について、さらに水災料率を地域区分によって細分化した場合、参考純率の改定率は以下の表の通りとなる。
水害リスクの高さによって区分した「水災等地」別に見ると、三大都市圏で最も改定率が小さいのは東京都1等地の4.3%。最も改定率が大きいのは大阪府5等地の25.9%となっている。同じ都道府県であっても、地域ごとの参考純率に大きな差が生じることが読み取れる。
水災補償を外す保険契約者が増加
今回制度が改定された背景として損保料率機構が挙げたのは、大きく以下の2点だ。
・自然災害の多発による保険金支払いの増加とリスク環境の変化
・水災料率が全国一律であることによる契約者間の保険料負担の不公平性
近年、一定規模の被害を及ぼす自然災害が毎年発生している状況に加え、住宅の老朽化や修理費の高騰も受けて火災保険の支払いが増加傾向にあるという。また、自然災害におけるリスク環境も近年大きく変化している。台風の接近頻度など災害の出現傾向が従前とは大きく異なってきているため、適切な参考純率を見直す必要があったということだ。
また、契約者間の保険料負担の不公平性も問題視されている。現行の水災料率は全国一律となっているが、水害リスクの高さに合わせて料率を見直すことで保険料負担の公平化を図る狙いがある。
現状、保険契約者が地域のハザードマップなどをもとに自分の地域の水害リスクは低いと判断し、保険料節約のために自身の火災保険から水災補償を外す傾向があるという。
災害の多発で保険金の支払いが増加傾向にあるにもかかわらず、その資金となる保険料を支払う人口が減ると、不足を補うためにさらに水災料率の引き上げが必要になる。その結果、水災補償を付帯できなくなる契約者が増加し、保険の補償機能そのものが働かなくなる懸念があるとされている。
参考値が引き上げられたことで、実質的に保険料が値上がりすることは否めないだろう。火災保険は値上げのトレンドが続いており、今後さらに値上げされる可能性も考えられる。
火災保険料の引き上げは、物件の収益性という面で不動産投資家に大きな影響を及ぼす。火災保険料の値上げによってどれだけ収支が変化するのか、また自身の所有物件が位置する地域はどの程度の水害リスクがあると定められているのか、今一度把握しておくことが必要だ。
楽待新聞編集部より引用
小林